恐怖の追いかけっこ


普通の生活だった。

毎日同じ時間に起きて、学校に行って授業を受けて
休み時間には友達と騒いで、部活をして、
そして家に帰る。

何もないタダ平凡で少し退屈な毎日だった

・・・・・ハズなのに

前に転がってきたサッカーボールを蹴った瞬間に
壊れてしまった。

サッカーボール
足で蹴るボール
前に転がってきたボールを手で拾わずに
ケリ返した・・・・・・・だけのに・・・・

その日を境にタダ平凡で少し退屈だった日常にピリオドがうたれ
身の安全を守る為の壮絶なカクレンボと鬼ゴッコが
始まってしまった。

同じ時間に鳴る目覚ましを止め、顔を洗って、朝食を取って
犬の散歩に行って、制服に着替えて、遅刻ギリギリの時間に
着く様に家を出る。

時間を調整しながら歩く。

そして、校門をくぐった瞬間、教室までダッシュで走る!!
視界に先生が入ろうとも、誰かに声を掛けられても
見えなかった、聞こえなかった事にして走る。
でないとアイツに捕まる!

直線の廊下を必死になって走るものの通行人や廊下で話している
人達が邪魔でスピードがでないが、毎日の事なのでバランスを取りながら
走ると同じスピードで走る影が視界に入った。


「相変わらずバランスだけは良いなぁ。遅いけど」


影を確認した瞬間、声が聞こえた。

「いぃ・・・いやぁあぁぁぁああ!!!」

叫びながら走る速度が上がる。
運動が苦手な自分が・・・これこそ火事場のナンタラかしら!
なんてツッ込み入れてる余裕もない!
           
「朝から遭遇しちゃったよぅ!!!!!」
                    
泣きそうになりながらも走り続け、階段を駆け上がる。
                  
「人を地球外生命体みたいな事言わないでくれる?
それに、俺には椎名翼と言うと一緒の人間なんだから」
                          
いかにも余裕で走っています。はっきりとした声。
ニコニコと笑う顔が連想される明るい声に
背筋が凍るほどの恐怖を感じた。
            
その時、救いの手が差し伸べられた。
教室のドアが見えたのだ。
しかもドアが開いている。
何時も閉まっている事が多いドアが今日は開いている!
                       
朝から遭遇して最悪最低なんて思ったけど、有難う神様!
がんばったわ、私。あと少しがんばれ私!!

速やかに教室に入るために走っていた足の動きを止め
廊下と上靴の摩擦で滑り、止まるタイミングを直感と
運に任せ隣のクラスの窓に手を掛け減速させ、
教室に飛び込んだ。

逃げ切った!!

壮絶な鬼ゴッコが終わり解放感に幸せを感じていると背後から声
がかかる。

。また、休み時間に」
                
その言葉に幸せから恐怖と不幸のどん底に
落とされ、急に身体が重くなりフラつきながら
自分の席に着き、身体を休めた。

捕まれば何もかもが終わる。捕まっても何もナイかもしれないけれど
そんな気がする・・・直感が訴える

捕まるものか・・・捕まるものか・・
何が何でも逃げ切ってみせる!!
俺はヤルぜ!とっつぁん!!

体力の回復とヘコんだ気持ちに気合を入れ直し授業を受た。
10分の休み時間は理科室やら体育館裏やらで
カクレンボをする。
相手も教室には入ってこない。

暗黙のルール。

だったら大人しく教室に居ればいいのだが、教室に居ると
『椎名翼FANクラブ』なる婦女子の方々に取り囲まれる。
彼女達は椎名翼との鬼ゴッコ&カクレンボをイチャつきと思い込み
総攻撃を仕掛けてくる。

『愛は盲目』

何処かの誰かが言っていた。
けど、盲目すきる!!
きちんと見れば解るだろうに・・・・・!
まったく、恋する乙女は強いわ。

感心しながら10分隠れてチャイムと共に教室に戻る。
繰り返される休み時間。

だが、時は容赦なく流れ2回目の勝負処の昼休みに入る
昨日の昼は音楽室、一昨日は体育館の舞台ソデ。
今日は人体模型君と骸骨君と共にお昼と取る為に理科室
に向かう。
 
授業終了のチャイムが鳴り終わると同時に教室を出る
と、ドアを開けた瞬間、天敵、椎名翼の姿を
確認してしまった。
そして、脳が命令する前に足が
スタートダッシュをかける。
走る!走る!
お腹が空いて気持ち悪いけど、私は走る!!
そして叫ぶ!

「昼休みぐらいゆっくりさせろぉぉおおお!!!」

45分の授業での回復はこの休み時間に
費やされてしまうんかい!!


後ろから追いかけてくる足音と気配が感じる
毎日と違うパターンで攻められたため、混乱を呼び
その混乱が更なる恐怖を呼び起してくる。
私は走って場所が解らなくなるぐらい
パニックになっていた。

ドアを開けると光が入り視界は真っ白になった。
風が熱くなった体を通り抜ける。

屋上 

逃げ場も隠れ場もない場所に来てしまった事に気づき
慌てて引き返そうと振り返るった。だが屋上の
ドアの前に立ち塞がっている天敵の姿に
心臓が跳ね上がった。

もうダメだぁ・・・必死になって逃げ切ってきたのに
もう・・・・もう・・・・・・・
 
・・・・・・・あれ?何がダメなんだろう?

・・・サッカーボールを蹴って何が悪いのよ!
なんだかムカつてきた!!!

こうなったらとことん勝負してやろうじゃない!
そうじゃないと女が廃るわ!
 
私は目の前の天敵を見据えた
しばらく2人共動かない。
先に動いたのは椎名翼だった。
椎名翼一歩近づいて私がは一歩後退する。

いくら逆キレして怒っていても、今まで味わってきた
恐怖は拭いきれず
天敵を睨んだまま後退する私の背中に容赦なく
フェンスがあたる。

逃げ場がなくなり、ただ、天敵を睨む

「何か御用ですか?」
 
勇気を振り絞って声を掛けると相手は一瞬驚きの
表情をするがも、すぐに悪い事でも企んでいる
様な微笑を返してきた。

と話をしようと思って教室の前で待っていたら
 急に走りだすから追いかけたんだけど」
        
「では、用件を聞きますので私から
  5m以上離れて頂けますか?」

寄るなとあからさまに言ったのに対して、相手は
笑顔でまた1歩寄ってきた。

なんで近づいてくるのよぉ!!?

焦りながらもどこかに逃げようと試みるが
後ろはフェンス前は天敵

となると逃げるのは左右しかない。
                 
視線を左右に振りどちらが逃げやすいか見比べる。
        
どっちも同じ距離・・・こうなりゃ勘だわ!!
女の第六感を信じて進むだけよ!

嫌味の様にゆっくり近づいてくる天敵の距離を
気にしながら、タイミングを測る。

視線は右。
体の体重は左。

後、数歩というところで左に小さく一歩踏み出し
次に出る足とタイミングを合わし右に体重を掛け
右に走り出す。
視界には椎名の後方にあった出口の
扉が飛び込んできた。

やった!!自分を信じて良かったよ!!
凄いぞ、自分!今日はご褒美の日ね!
 
嬉しくて、天敵の行動なんて、気付かなかった。

、俺を誰だと思ってんのさ。そんな単純な
 フェイントに引っかかると思ってるの?
 しかも、そんな嬉しそうな顔して、単純て幸せだよね」

攻撃的な言葉が耳に入ってきて、扉が見えていた
視界は真っ白になって、器用にも椎名翼の
肩にぶつかる。

鼻が・・タダでさえ低いのにこれ以上低くなったら
どうしてくれるのよぅぅぅ!!!

少しでも鼻の高さを気にして伸ばすように両手で
挟み押さえる。

そんな様子を見て天敵が言う

「今さらそんな事してもムダ。諦めた方がイイよ」

なんなの!なんなのさ!!?
いったいどんなウラミがあって私の事をからかう!!

鼻の痛さと言葉の攻撃にキレながらも
声に出して言わないあたりがまだ冷静を保っている。

こんな事声にしてFANクラブに聴かれでもしたら
私に明日はないわ。

ここは速やかにコトを終わらせてお弁当食べよう。

「鼻の事は言わないで下さい。それと先ほど言っていた用と
 はいったいなんですか?」

天敵が私の鼻とぶつかったのか肩を擦りながら質問に答える

「サッカー好きなの?」

「・・・・・・はい?・・・すみませんが私のどこを見たら、
 そんな質問が出てくるのでしょうか?」

あまりにも唐突でな質問に鼻の痛みも忘れた。

「質問をしたのは俺なんだから答えてくれる?」

「まぁ、好きですよ。運動神経が皆無に等しいので
 自分ではしませんが・・・・」

ヘタに言ってオオゴトになるのを防ぐため言う事は言っておく。

「確かに。足は遅いしフェイントは単純だけどケリの方
 良い筋してるよな。もしかして小学校の時にクラブに入っていた・・・・
 にしては、レベルが低いか」

「何が言いたいのか良く解りませんが、
 クラブには入っていませが・・・??」

いったい何なんだろう?
人の事と聞いてナニが楽しいのやら・・・・。
それより私はお弁当を食べたい!今日のおかずが気になるのよ!!
お弁当に視線を落とし、ため息を付きながら天敵に視線を戻すと
何か考え込んでいる。

「あの、そろそろ・・・・・・」

帰ってもいいですか?と言いたかったのに天敵か言葉を重ねてきた

「サッカーやってみる気ない?」

考え込んで出た答えがそれかい!!

なんだか、関西風のツッコミを手と共に入れたかった
・・・・が、これも自分の身の安全の為に
心の中で終わる

「・・・先ほども言いましたが、私の運動神経は皆無ですので
 お断わりいたします」

頭を下げ、横を通り過ぎようとすると
 
「逃げるの?」

マシンガントークより攻撃力がある一言が耳に入る

「逃げる?どうしてですか?」

思わず天敵に振り返り睨む。

天敵は『かかった!』と言わんばかりに、笑っていた。
 
「何もしないで、断るなんて逃げる以外のナニに入るのさ。
 それに俺は本当に運動神経がない人間には声をかけない。
 それすら解らないなんて、毎日ナニしてたのさ?
 無駄に鬼ゴッコしてた訳じゃないて解らなかったの?
 俺が本気なったらなんか初日に捕まえてる。
 まさか何も考えずに走ってたなんて言わないよね」

にっこり笑ってマシンガントークが炸裂した。

あまりにも早くて言葉の多さにショートしそうななった
頭を何とか持ち直し理解してみる。

なんだかムショーにムカツいたが、ココでキレても
相手を煽るだけ・・・
冷静に・・・・・・冷静に!!!

「・・・・考えていませんでした。何より自分の命と
 平和を守る事で一杯一杯でしたから」

「何ソレ?まぁいいさ。それよりサッカーをするの?
 しないの?まさか俺の誘いを断るなんて事しないよね?」

微笑みながらさりげなく脅してくる。
断ったら承知しないよ・と言わんばかりの
微笑みに背中に恐怖が走る。
 
断ればこれからも鬼ゴッコが続くのだろうか?
いや、続かなくても何かしらの報復はあるに違いない。

だったら話を受けるべきなのでは!?
     
でも、FANクラブはどうする?

あぁ、どっちに転んでも良い事はないのかぁ!!

現状維持か明日尽きる命と平和をとるべきか・・・・・
           
あ!サッカーに入ればFANクラブの事を本人に言って
押さえさせればイイんじゃん!!

グッドでナイスなアイデア!!
 
元々サッカーは嫌いじゃないし!
引き受けても問題ないよね!

「お受けします・・・!!」
                    
いきなりのOKの返事に天敵の返事が遅れた。

「・・・二言はないね。て、言っても受け付けないけどね。
 じゃあ今日の放課後グランドに来る事。
 あ、逃げないように迎えに行こうか?」

「逃げません!女に二言はありません。
 放課後にグランドですね!」

天敵の目を見て言う。

「解った。放課後グランドで」

言い残すと天敵は屋上から去っていった。
いまいち理解できないままサッカーをする事になってしまったが・・・・・・・。

ま、いいか

気分を入れ替え、手に持っていたお弁当を広げ食べ始める。
あれだけ振り回したのにお弁当の中身は無事。
綺麗なままだった。

運動の後と戦いの後のお弁当は格段と美味しかった。

午後の授業を受け、休み時間に入っても天敵は現れなかった。
が、FANクラブの婦女子の方々とのカクレンボだけだったので
簡単に逃げ切って1日の授業は無事終了した。

放課後約束通りクランドに行くと天敵と美人な女の人が話していた。
声を掛けるべきか、どうしようかと考えていると、2人して
こちらに向かって歩いてきた。

軽く頭を下げる。それが礼儀よね。
頭を上げ、見上げると美人なお姉さんが微笑んで
言葉を掛けてくれた。
 
「初めまして。さんね?私はサッカー部の監督の
 西園寺玲よ」
 
「はい、3年です」

大人の微笑みに見とれていると天敵が不機嫌そうに
声を掛けてきた。

。とりあえずジャージに着替えなよ」

「そうね。制服じゃ出来ないものね」

西園寺監督の指示に従い、天敵に連れられ部室で着替える。
現実逃避して逃げたくなる汚さの中着替えた。
言葉で言うならゴミ捨て場!!
         
こんな所で着替えてるなんてどういう神経してるの!!?
ま、他の女子部員が片付けてもすぐ汚くなるんだろう・・・
女子部員に同情しながら部室を出てグランドに戻ると
西園寺監督が、おいでおいでと手招きしてくれていたので駆け寄ると
男子ばかり集まっていた。

なにをするのだろう・・・・・?

呑気に西園寺監督の話を聞いていると練習メニューから
自分の紹介になっていた。
        
男子に自己紹介しても関係ないのでは?
 
なんて思って軽く自己紹介をすると
金髪の人が話し掛けて来た。

「転がってたボールを翼に向かってボール蹴ったんは、
 あんたやろ?」

はい?誰が天敵に向かってボールを蹴ったって?
記憶がない。
首を振り否定をする。

「人違いではないですか?」

「へぇ〜自分がした事を人のセイにするの?
  それに受けた俺の事を疑うんだ」

「私がいつアンタに向かってボールを蹴ったって言うのよ!」

今まで押さえていたもの一気に出て大きな声で怒鳴りつけた
少しスッキリして周りを見ると、私の事を怯えた顔で見ていた。
そんな中、西園寺監督が笑いながら疑問に
答えてくれた。

ちゃんの蹴ったボールが綺麗にループして翼の前に落ちたのよ。
 ちゃん蹴った後ボールの行方も見ないで
 歩き出したから、蹴った後の事は知らないのは当たり前だわ」

説明されても見ていない事なので実感がわかず曖昧に返事を
返してしまった。

「はぁ・・・じゃあその事を恨んで今まで追いかけられた訳ですね」
 
「恨む?」

不思議そうに西園寺監督が聞いてくる。

「はい。朝、休憩時間、昼休み、放課後に追いかけられてんです」

逃げ切るの大変でした。

と、付け加えると西園寺監督は困ったような顔をした。

「あまりにも綺麗なシュートだったもので、良かったらちゃんを
  サッカー部に誘ってね。て、翼のお願いしたのが
  いけなかったのかしら」

が、困った顔をしていたのはココまでだった。

「でも、私が言わなくても翼だったらちゃんを
   サッカー部に誘ってたでしょうねぇ」

追いかけられる原因が解り、元を作ったのが自分だったので
ナニも言えず西園寺監督の顔を見て気分を治す。
監督と目が合い微笑まれ、同姓なのにテレてしまい
慌てて下を向くと声をかけられる。

「さて、ちゃんの紹介も終わった事だし
  練習を再開しましょうか。取り合えず女の子は
  ちゃんだけだから、私と練習しましょう」

練習の誘いを受けたにも関わらず体が動かなかった。

女子部員が私だけ・・・・・・?
しかも練習相手は監督・・・・・?
もうダメだぁ・・・・・

頭を抱えてしゃがみこんでいると椎名翼が声をかけてきた。

「監督がイヤなら俺が相手してやるよ」

言い終わらぬ内に服を引っ張られグラウンドの隅に連れて行か、かってに練習を始めた。

初心者なのに容赦なかった・・・・・

罵声が飛び交う中、ごくたまに9.5:0.5の割合で
褒めの言葉もあった。
その日の練習は天敵とのワンツーマンで終わった。

自宅に帰り、いつ行ったのか記憶にないが犬の散歩に行き
その日は12時前に眠りに入った。

次の日、犬の散歩のため家を出ると椎名翼が家の前にいた。

朝練があるらしい・・・・・

とりあえず犬の散歩だけは行くと言い張り、愛犬と散歩に
行くと何故か椎名翼も付いて来た。
家に帰ると急いで着替え椎名翼と学校に行く。

その途中にFANクラブに注意と放課後の練習を、
少し減らして貰うように言うとFANクラブの事は直ぐに
受けてくれたのに練習量の事だけは
一向に引き受けてくれなかった。

正直に理由を言うと

「俺が変わりに行ってやる」

と言い出した。

イヤ、アンタじゃ無理だから!
それに私以外あの犬は懐かないのよ!

説得を試みたら

「一緒に行けばいい」

と、言い出した。

ナニを考えているのか不明ですわ。

練習量を減らせばいいと一緒に行くとの言い合いは
放課後まで言い合い、監督の

「夜は危ないから一緒に行って貰いなさい」

との一言に折れ
朝、夜一緒に散歩に行く事になった・・・。
しかも、昼食まで一緒に取っている。
椎名翼いわくFANクラブ予防らしい・・・・。
朝の散歩は関係ないのでは・・・・
と、思う。

ま、自分も練習したいハズなのに
なんだかんだ言いながらも見放さず練習に付き合ってくれている
事は感謝かなぁ・・・・